草むしりおばあちゃんの異常なオーラ伝説

「無農薬栽培は草との戦い」と言われたりします。
経験則からしましても確かにその通りで、特に夏場なんてものすごい勢いで生えまくります。
 
よって大事な野菜が草で埋もれてしまわないようひたすら抜く、抜く、抜く。農薬を撒かない我々は、毎年結構な数の草を抜いています。
そしてそれは思っているよりも結構ひたすらで、その単純作業の連続はまるで修行のようなのです。
 
そして僕はその修行の果てに、どのような姿が待ち受けているかを知っていたりします。
 
10年程前、群馬県の農家さんのところで住み込み研修をしていた時のことです。
その農家さんのところに異常なオーラを放つおばあちゃんがいました。
 
そのおばあちゃんは、住み込みで研修を受けていた農家のおじさんのお母さんでした。
齢は80代も後半でしょうか、実質ハードな農作業は引退されていて、ヤングな僕たちと混じって農作業をすることはありませんでしたが、時々作業場の近くで会ったりした時は立ち話をしたりしました。
 
おばあちゃんの言葉には異様なほどの説得力があります。
例えばおばあちゃんが「今日は空が青いねぇ」などと言えば、僕はおばあちゃんがそう言うのなら確認するまでもない、青いに決まっている!他の色であるはずがない!とそのように感じられるくらい、強い説得力がありました。
 
またおばあちゃんは黙っていても異常なオーラを放っていました。
僕はオーラが見えるとかそういうわけではないのですが、すごい人の肩の辺りからモクモクと立ち込めるようなイメージの、そういったオーラのような、凄みみたいなものを、おばあちゃんからも確実に感じていました。
例えばおばあちゃんが黄昏の畑に佇むだけで、おばあちゃんから風が吹くような、そのオーラに飛ばされそうになるような、そんな感覚を感じるんです。

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やがて僕は、おばあちゃんのこの異常なオーラはいったいどういう因果で放たれるのか、その秘密を探ってみることにしました。
そしてその秘密の答えは、案外すぐ見つけることができました。
 
おばあちゃんの観察を始めてわかったことは、おばあちゃんのとことんそぎ落とされたそのシンプルライフでした。
 
先ほど言った通り、おばあちゃんはハードな農作業は引退していましたが、ある日課がありました。それは草むしりです。
毎日、午前午後とTBSのラジオを聴きながら粛々と草をむしる。毎日数メートル進み、次の日は続きからむしる。そうこうしているうちに、季節は巡り、また新たな雑草の芽が芽吹く。しかしおばあちゃんはなにも変わらず、毎日草をむしり続けます。
そのサイクルは永遠のように、小さな宇宙を形成していました。
 
僕はその様子を見て、これがおばあちゃんの異常なオーラの秘密だと結論付けました。
おばあちゃんの日課である永遠の草むしりが、修行のような、ある種の瞑想的効果を発揮し、いつの間にかおばあちゃんを仙人にしてしまっていたのです。
 
目の前の草と向き合って宇宙を見たおばあちゃん。この経験は僕の考え方を形成する一つのピースに、確実になっています。
 
僕もやがておじいさんになります。それまで修行に精進して「空が青いねぇ」とさりげなく呟いて、若手農家を吹っ飛ばしちゃおうかな。