月の無い今宵、並行複発酵と呟いて

僕は仕事で2つの日本酒に関するプロジェクトに関わっていて、そのため日本酒についての勉強をしていたりします。その中でとても響きの良い言葉を発見しましたので紹介します。
 
その名も「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」です。
 
発酵自体が様々な微生物が働く作用であって、さらにそれが並行でありながら複重しているわけですから、もうかなり複雑ことになってます。
 
この並行複発酵とは日本酒を醸す時の発酵作用のことで次のような意味です。
 
〝並行複発酵(へいこうふくはっこう)とは、東アジアの醸造酒蒸留酒の製造過程で起こる発酵の一種であり、酵素によってデンプンブドウ糖に変化する糖化と、ブドウ糖が出芽酵母の働きによってアルコールに変化する発酵とが、同一容器中で同時に行われることをいう。ーWikipediaより″
 
同じ醸造酒であってもワインは葡萄がそもそも持っている糖と酵母で発酵する単発酵です。
それに対して日本酒は米の糖分だけでは足りないので、その米から麹が糖を作り、同時にその糖を酵母がアルコールに変えてゆく。
 
これらがひとつのタンクの中で同時に行われる発酵の立体交差にはロマンチックを感じます。
 
そしてこの並行複発酵で醸されるお酒は、世界でも東アジアの数種類のお酒だけ。つまり珍しい特有の技法ということです。
まさに蔵人の匠の技。この複雑な技法を乗りこなした先に今日の美味しい日本酒があるのだと考えると、めちゃくちゃカッコよくて魅力的です。

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大磯農園のみんなで育てたお米で醸造された「僕らの酒」
僕はこの並行複発酵の言葉とその意味を知ってから、より日本酒を大事に飲むようになりました。なんだかせっかく並行複発酵で醸されたお酒なのに、無心で飲むのはもったいないような気がするのです。
そしてそんな気づきと同時に、ある病にかかっていることにも気がつきました。
 
それは「並行複発酵って言いたい病」です。
 
例えば都内のオシャレな日本酒バー的なところで若者たちがキャッキャと日本酒を楽しんでいたとする。僕は少し離れたカウンターで一人飲んでいる。そして僕はグラスの日本酒を一口飲み、こう呟く。
 
「並行複発酵…」
 
すると若者たちは振り返り、なんだあのミステリアスでダンディーなお兄さんは!一緒に飲みましょう!とこうなる。
 
またこれは日本酒に詳しいそうなおじさん達でも問題ありません。日本酒談義で盛り上がっているおじさん達に絶妙に聞こえるくらいのボリュームで
 
「やれやれ、まさしく並行複発酵ですね。恐れ入りました」
 
なんて言ってみる。するとおじさん達は、おお!君は話がわかりそうな奴だな!一緒に飲もう!とこうなる。
 
これらはまだ実際にやってみたわけではありませんが、新型コロナウイルスが収束したあかつきには、どんどん出掛けて行ってどんどん言っていきたいと思います。それくらい僕は並行複発酵に魅せられて、病気はどんどん進行しているようです。
 
少し話がそれましたが、何はともあれ今宵も一人でしっぽり晩酌。月の無い新月の夜空に呟きます。
 
なんて呟くかは、言わなくてもわかりますよね?